臨床研究


「大腸カプセル内視鏡検査における適切な処置法の検討」

研究目的

大腸カプセル内視鏡検査では、洗浄液により大腸内の洗浄を行った後に、大腸カプセルの排泄促進剤として、各種下剤・腸管蠕動亢進剤(腸管運動を高める薬剤)などを服用していただきます。しかし、これまでの方法による大腸カプセル排泄率は70-90%と報告されており、満足のいくものではありません。さらにカプセルが排泄されるまでの時間(消化管通過時間)が長いことが問題となっています。アミドトリゾ酸ナトリウムメグルミン液(商品名:ガストログラフィン、以下、商品名で表記)は一般に使用されている水溶性消化管造影剤です。最近、これを使用することにより100%に近い大腸カプセル排泄率が報告されています。福島県立会津医療センターでの経験では、排泄率が高いばかりでなく、消化管通過時間が短い傾向がみられました。この研究において、ガストログラフィンを使用することにより高い排泄率・短い消化管通過時間が実証できれば、大腸カプセル内視鏡検査がさらに普及することが期待できます。
この研究では、ガストログラフィンを用いた処置法を行った際に、大腸カプセルを飲み込んでから肛門より排泄するまでの時間が短くなるかどうかを、ガストログラフィンを使用しない場合と比較し、有効性を検討することを目的としています。

研究方法・研究協力事項

本研究は福島県立医科大学会津医療センター、小樽掖済会病院消化器病センター、東京医科歯科大学消化器内科、北海道消化器科病院、九州大学病院消化管内科、京都府立医科大学消化器内科と慶應義塾大学で行う多施設共同試験です。大腸カプセル内視鏡検査を、以下に示す二つの処置法(Regimen A vs. Regimen B)のどちらかを使用し施行していただきます。臨床試験を公平かつ客観的、科学的におこなうため、どちらの処置法に振り分けられるかは分かりません。また、どちらかになる確率はそれぞれ50%で同じです。この臨床試験の方法は薬の有効性を調べる場合など、世界中で一般的に使われている方法です。

Regimen A(ガストログラフィン投与群)

前日:朝と昼は低残差食、夜より絶食
   モビプレップ1L+水(お茶)0.5L
   ラキソベロン 10ml
当日:モビプレップ1L+水(お茶)0.5L
1時間後:カプセル内視鏡をプリンペランシロップ30mL・ガスモチン2Tと服用
★これ以降、10分以上の歩行、体位変換、腹部マッサージを適宜、行う
+1時間後:マグコロール0.9L・ガスモチン2T・ガストログラフィン50mLを服用
+1時間後:マグコロール0.9L・ガストログラフィン50mLを服用

+1時間後:テレミン坐剤の直腸内投与
+1時間後(カプセル内服4時間後):カプセル内視鏡が排泄されない場合は、救済措置としてガストログラフィン50mL+水またはお茶を200ml服用する。
+1時間後:テレミン坐剤の直腸内投与
+1時間後(カプセル内服6時間後):カプセル内視鏡が排泄されない場合は、救済措置としてガストログラフィン50mL+水またはお茶を200ml服用する。

Regimen B(対照群)

前日:朝と昼は低残差食、夜より絶食
   モビプレップ1L+水(お茶)0.5L
   ラキソベロン 10ml
当日:モビプレップ1L+水(お茶)0.5L
1時間後:カプセル内視鏡をプリンペランシロップ30mL・ガスモチン2Tと服用
★これ以降、10分以上の歩行、体位変換、腹部マッサージを適宜、行う
+1時間後:マグコロール0.9L・ガスモチン2Tを服用
+1時間後:マグコロール0.9Lを服用
+1時間後:テレミン坐剤の直腸内投与
+1時間後(カプセル内服4時間後):カプセル内視鏡が排泄されない場合は、救済措置としてガストログラフィン50mL+水またはお茶を200ml服用する。
+1時間後:テレミン坐剤の直腸内投与
+1時間後(カプセル内服6時間後):カプセル内視鏡が排泄されない場合は、救済措置としてガストログラフィン50mL+水またはお茶を200ml服用する。

大腸カプセル内視鏡施行後に、処置法(下剤)の印象などアンケート調査を記入していただきます。そのほかに、診療以外の目的で本研究のために普段内服しているお薬や症状などを調べるためにカルテの閲覧をさせて頂く場合があります。

研究協力者にもたらされる利益および不利益
●利益

本研究に参加することにより、本来診療上必要であった大腸カプセル内視鏡検査を費用負担なしで施行できます。

●不利益

通常の大腸カプセル内視鏡検査には使用しないガストログラフィンを使用することによっておこるかもしれない不利益が考えられます。しかしながら、本来用いられている消化管造影検査におけるガストログラフィンの安全性については、ほぼ確立されています。薬の説明書きに書かれている副作用は、過敏症などが記載されていますが頻度は不明とされており、副作用の頻度は非常に低いと考えられます。大腸カプセル内視鏡検査でガストログラフィンを使用したとの報告もあり、これに伴う危険性及び不利益は現在のところ報告されていません。ガストログラフィンによる副作用が起こった場合、最善の処置を行い、これらの費用については、当方で臨床研究損害保険に加入し、この臨床研究保険から保障措置を行います。これ以外の不測の事態が起こった場合にも最善の対処を行います。

お問い合わせ先
慶應義塾大学医学部 内視鏡センター 細江直樹
keio.endoscopy@gmail.com
までご相談ください。

「大腸カプセル内視鏡による潰瘍性大腸炎用
内視鏡スコアの作成」

研究目的

潰瘍性大腸炎は、大腸にびらんや潰瘍を形成する原因不明の病気です。潰瘍性大腸炎の診断では、通常は大腸内視鏡や注腸X線造影によりびまん性に拡がる腸病変の程度、罹患範囲などを確認します。しかしこれらの検査では、痛みの他、増悪や穿孔の危険性があるため病状が安定するまで待機することも稀にあると言われています。
一方、カプセル内視鏡は、ビタミン剤のように自分で口から飲み込み、消化管を通過しながらその内部を撮影できる、幅11mm, 長さ31mmの医療機器です(下図)。飲み込まれたカプセル内視鏡は消化管を通りながら大腸の写真を撮影します。通常の大腸内視鏡検査では痛みを伴うことがあると言われますが、大腸カプセル内視鏡検査では送気がなく、スコープと大腸の擦れがないためそのような痛みはありません。大腸カプセル内視鏡検査はヨーロッパ、アメリカなど諸外国でも実施されており、日本では大腸ポリープを検出する臨床試験により2013年7月に承認され、大腸内視鏡検査が困難な方に保険が適用されました。
大腸カプセル内視鏡検査では通常の大腸内視鏡検査より下剤の量が増えますが、この点を除けばあなたのように潰瘍性大腸炎と診断されているかたの経過観察(治療効果や重症度の確認など)において有効であると考えられ、また大腸内視鏡検査で痛みを伴う方ではその痛みを軽減できる可能性があります。ただし大腸カプセル内視鏡では送気がないことなどから大腸内視鏡と比べて大腸粘膜の見え方に違いがあること、大腸内視鏡が困難な潰瘍性大腸炎の方に大腸カプセル内視鏡がどれ位有効であるかが分かっていないこと、が課題と考えています。そこで本研究は、大腸カプセル内視鏡用の判定基準(スコア)を作成し、大腸内視鏡が困難な方に大腸カプセル内視鏡検査を行い、そのスコア用いて、大腸カプセル内視鏡の有効性を確認することを目的としています。

研究方法・研究協力事項

本研究は、北里大学北里研究所病院 炎症性腸疾患先進治療センター、東京医科歯科大学 消化器内科、東邦大学医療センター佐倉病院 消化器内科、大船中央病院で行われる多施設共同研究です。
今回、ニフレック及びマグコロールPという下剤と、ガスモチンやプリンペランという胃腸の動きをよくする薬を使用して大腸カプセル内視鏡検査を受けて頂きます。検査手順はあなたの状態に合わせて、UC用推奨レジメンA、Bから選ばれます。診療以外の目的で本研究のために普段内服しているお薬や症状などを調べるためにカルテの閲覧をさせて頂く場合があります。また、採血結果を閲覧させていただきます。大腸の炎症を測定するために、便検査をさせていただきます。また、大腸カプセル内視鏡検査についてのアンケートを記入していただきます。大腸カプセル内視鏡用の判定基準(スコア)があなたのその後の状況を予測できるかどうかをしらべるため、大腸カプセル内視鏡を行った後3年間の状況を調べさせていただきます。

研究協力者にもたらされる利益および不利益
●利益

大腸内視鏡が困難な方が『大腸カプセル内視鏡』検査を受けることができ、大腸内視鏡検査で観察できなかった部位が観察できる可能性があります。

●不利益

胃腸の動きをよくするために服用するガスモチン錠、プリンペラン錠の副作用が起こる可能性があります。添付文書によるとガスモチン錠では肝機能障害(頻度0.1%以下)、プリンペラン錠ではアレルギー、アナフィラキシー様症状(頻度不明)、が挙げられていますが、両薬剤とも副作用の発言頻度は非常に低いといえます。 大腸カプセル内視鏡の副作用としては、海外では約2万件の大腸カプセル内視鏡検査が行われておりますが重篤な副作用の報告はなく、我が国においても同様です。もしあるとすれば、カプセル内視鏡が滞留(カプセルが腸管内に留まり出てこなくなること)することが、非常に低い頻度ですがあるかもしれません。このため、担当医師は、消化管に狭くなったところや、詰まったところかないか、問診にて確認します。大腸カプセル内視鏡が体内に留まった場合、レントゲンでカプセルの位置を確認し、下剤などを服用して頂き排出促進を検討します。それでも排出されない時は、まずは内規鏡によりカプセルを取り出せるか検討し、困難な場合には開腹(お腹を切る)手術によって取り除く必要があります。 また、これ以外の不測の事態が起こった場合にも最善の対処を行います。

お問い合わせ先
慶應義塾大学医学部 内視鏡センター 細江直樹
keio.endoscopy@gmail.com
までご相談ください。

「プローブ型共焦点レーザー内視鏡、拡大シングル
バルーン小腸内視鏡の小腸疾患に対する有用性」

研究目的
(背景、目的)

共焦点レ一ザ一内視鏡(confocal laser endomicroscopy:CLE)は生体組織に蛍光色素を投与後、 レ一ザ一光を照射し、生体内で顕微鏡レベルの観察が可能な内視鏡です。この内視鏡は外径2. 8mm、長さが3 m~4 mと細長く、内視鏡の鉗子孔(生検するための道具を通す細い穴)を通すことができ、通常の内視鏡を行いながら、顕微鏡のような画像を見ることが可能です。このプローブ型CLE(pCLE:フランス•マウナケア社)はすでに欧米で臨床応用されており、本邦では2014年4月薬事承認されましたが、健康保険の適用がないのが実情です。pCLEを用いた臨床研究は大腸がんの迅速診断や、炎症性病変の炎症細胞観察の有用性が報告されていますが、小腸病変に対しては、ほとんど行われていないのが実情です。一方、オリンパスメディカルシステムズ社からシングルバルーン小腸内視鏡(SIF-Q260)という小腸内視鏡が発売されており、小腸疾患に対する内視鏡として一般的に使用されています。このシングルバルーン小腸内視鏡に80倍の拡大観察機能を搭載した小腸内視鏡がオリンパスメディカルシステムズ社によって開発され、当院で貸与を受けることが可能になりました。そこで、拡大機能付きの小腸内視鏡と顕微鏡レベルの観察が可能なpCLEをもちいて、小腸の病気を観察し、これらの内視鏡観察が有用かどうか検討することを目的としました。

(方法)

小腸疾患を有する、もしくは小腸疾患が疑われ、シングルバルーン小腸内視鏡による精査、治療が必要な患者さんに対し、小腸検査を行い、拡大シングルバルーン小腸内視による通常観察と80倍の拡大観察を行います。次に、pCLEを用い、蛍光造影剤を投与し、顕微鏡レベルの超拡大観察を行います。

研究方法・研究協力事項

本研究は、慶應義塾大学医学部内視鏡センターにて行う臨床研究です。研究資金は慶應義塾大学医学部内視鏡センターの研究資金を用いて行います。80倍の拡大観察機能を搭載したシングルバルーン小腸内視鏡はオリンパスメディカルシステムズ社から無償貸与をうけ、pCLEは慶應義塾大学医学部内視鏡センターの研究資金を用いて購入したものを使用します。小腸疾患を有する、もしくは小腸疾患が疑われ、シングルバルーン小腸内視鏡による精査、治療が必要な患者さんに対し、拡大シングルバルーン小腸内視による通常観察と80倍の拡大観察をまず行います。次に、シングルバルーン小腸内視鏡の鉗子孔から、pCLEを挿入し、蛍光造影剤を投与し、顕微鏡レベルの超拡大観察を行います。pCLE観察には、蛍光造影剤(フルオレセイン、商品名フルオレサイト)を静脈注射することが必要です。フルオレセインは眼科用の蛍光眼底造影剤であり、日常的に使用されている薬剤です。これらの内視鏡検査全てを行うと、通常の小腸内視鏡検査と比較し約15分余分に時間がかかります。診療以外の目的で本研究のために普段内服しているお薬や症状、検査結果などを調べるためにカルテの閲覧をさせて頂く場合があります。

研究協力者にもたらされる利益および不利益
●利益

80倍の拡大観察pCLEによる超拡大観察によって、微小な病変を指摘できる可能性があります。

●不利益

拡大シングルバルーン小腸内視鏡は未発売ですが、現在発売されているシングルバルーン小腸内視鏡と同一形状であり、薬事承認のある内視鏡です。したがって拡大シングルバルーン小腸内視鏡を使用する危険性は現在発売されているシングルバルーン小腸内視鏡と同等と考えます。拡大観察とpCLE観察を行うことにより約15分検査時間が延びることが不利益の一つです。また、pCLEは、薬事承認を得ており、患者さんへの使用は許可されている医療機器ですが、保険適用はなく一般的には行わない検査です。pCLE観察に使用するフルオレセインは、眼科用の蛍光眼底造影剤であり、眼科ではよく使用されている薬剤です。このフルオレセインの添付文書(薬の説明書き)では、重篤な副作用(ショック、アナフィラキシーなどの過敏症)は0.1%未満と記載されています。また、pCLEは欧米で幅広く使用されていますが、欧米の多施設による2272回のpCLE検査の副作用報告によると、pCLE使用時のフルオレセインの副作用に重篤なものはなく、1.4%で軽微な副作用(嘔気、皮診、一時的な血圧低下)がみとめられたと報告されています。 また、これ以外の不測の事態が起こった場合にも最善の対処を行います。本研究に参加中、あなたに健康被害が生じた場合は、私たちが適切な治療を行います。その際、一般診療同様、あなたの健康保険を使って治療を行います。そのため、あなたに生じる負担金はあなたにご負担いただきます。本臨床研究については、あなたに生じた、本臨床研究と因果関係を否定できない健康被害の補償に備えて、研究責任医師等本研究に携わるすべての者を被保険者として臨床研究保険に加入しています。この保険は、臨床研究に起因して研究期間中または終了後1年以内にあなたに健康被害(死亡または医薬品副作用被害救済制度基準の後遺障害1級または2級)が生じ、研究責任医師等が負担する補償責任、または本臨床研究に起因して被験者に身体障害が生じた場合に、研究責任医師等が法律上の賠償責任を負担することによって被る損害に対し保険金を支払うものです。

費用負担に関する事項

小腸内視鏡検査は本来受ける必要があった検査ですので、患者様のご負担(保険診療)で行っていただきます。プローブ型共焦点レーザー内視鏡にかかわる費用(フルオレセインの薬剤費を含む)は当方の研究費で負担いたします。小腸内視鏡の結果から治療の必要がある病気が分かった場合の治療費用、本研究に参加中、あなたに健康被害が生じた場合は、私たちが適切な治療を行い、一般診療同様、あなたの健康保険を使って治療を行います。そのため、あなたに生じる負担金はあなたにご負担いただきます。

お問い合わせ先
慶應義塾大学医学部 内視鏡センター 細江直樹
keio.endoscopy@gmail.com
までご相談ください。